アヤシイ撮影隊
《社会と人間を動かす力学》ビデオ撮影記
佐藤重範(仮説実験授業研究会・岡山)
2000/5/5
1次隊員 三木淳男・小河達之・佐藤重範
2次隊員 森田明義・三木淳男・小河達之・佐藤重範
3次隊員 板倉聖宣・荒井公毅・西条善英・小河達之・佐藤重範
■アヤシイ撮影隊って何?
1999年1月の冬の仮説実験授業全国大会で板倉聖宣さんの和光大学での講義〈社会と人間を動かす力学〉を授業プラン化し,発表しました。ずいぶん興味をもってもらえましたが,実験ができずお話しだけの問題がいくつかあって,納得してもらえない部分がありました。
そこで,「なんとかビデオに撮れないだろうか。実際に目の前で実験できたら一番いいのだけど,せめてはっきり分かるものにしたいなぁ」と思い,岡山仮説サークルの三木さん,小河さんに「〈社会と人間を動かす力学〉のビデオを撮りたいんですけど,いっしょにお願いできませんでしょうか。三木さんは,《結晶》とか《光と虫めがね》とかの自作ビデオを作られたりしているし,あといろいろな機材を持っている小河さんにお願いしてみますから,どうですか」と誘ったら,「いいですよ」とO.K.して下さいました。このとき,野外でいろいろ実験している様子が,「普通の人から見たら,とってもアヤシイよねぇ」ということで,三木さん命名で「アヤシイ撮影隊」というものが結成されたのでした。その撮影
記です。
■パート1−1999.3.13
3月末に撮影しました。実は,数日後に「実際に会う楽知ん研究会in東京」が仮説会館で開かれ,そこでこの授業プランの講師になったので,そこに間にあわそうと思ったのでした。ところが前日までボクは嘔吐下痢で大変でしたが,この研究のたのしさが勝ってか,朝には動けるようになりました。
当日は,いい天気でした。岡山市内・牟佐の大原橋の河川敷に,朝早くからスタッフがぞくぞくと集合しました(といっても実は佐藤さんとボクと小河達之さんの3人だけ・・)。そして,撮影を始めました。なぜ,こんなところでというと,
【問題】「豆粒くらいの石」と「にぎりこぶし大の石」ではどちらが遠くまで投げられるか?
という実験をビデオにおさえたかったからです。できれば,石が水面に落ちるときの「ジャボンッ」というのを撮影したかったのですが,前日までの雨で水量がけっこうあって,まっ平らな水面というわけには,いかずでしたが,始めました。
もと野球少年の三木淳男さんは,「すでに現役を引退しているため」ということで,ビデオ撮影係に徹され,小河さんが落下地点に立つ係り,ボクが投げました。このときまでは,「簡単に撮れるだろう」と思っていたのでしたが,投げる石がカーブする,コントロールが定まらない,落ちた地点の違いがハッキリビデオでわからない,石の速度にカメラワークがついていかない,などいくつもの問題が発生!という状態で「科学映画を作る人たちの苦労は,並み大抵のものではない…」とため息がもれるほどでした。
次にロケ隊は,そこから車で約10分ほどの所にある「法界院」というお寺に行きました。このお寺は,三木さんの実家に近く,「鐘楼では
<鍛練> と称して石垣登りなどに使用した,由緒正しいものなのであった・・。なつかしいなぁ」と感慨にひたってました。ここでの実験は,
【問題】小指1本で釣鐘を大きく揺らすことができるか?
という例の実験です。小河,佐藤の実験スタッフは,交代で小指が「突き指」状態になるのをぐっとガマンしながら,科学のために貢献するのでした・・(小河さんは,あとのエレクトーンのレッスンがあるのに)。
そして,さらにロケ隊は,岡山空港近くに向かいました。今度は,
【問題】50mの高さから大(直径20mm)・小(直径10mm)2つの鉄球を落としたら,どちらがはやく地面に到達するか?
というムチャクチャな問題を実験するためです。「50m」といえば,ビルなら15階くらいは必要です。そんな高い所から物を落とすなんてかなり無謀ではあります。「そんな実験やらせるなよ〜,と私は言いたいっ!」と三木さんは言っていました。
みなさんもガリレオ・ガリレイさんが「ピサの斜塔から,落下の実験をして,それまでの間違いを正した」というエピソードを知っている方もおられることでしょう。でも,それを実際にやってみたという人をボクは聞いたことがありませ
ん(この撮影隊のきっかけは,「実際に見ないと納得できない」という埼玉の多久和俊明さんの意見からスタートしたのでした)。ムチャクチャな問題ですが,ボクにはとっても興味ある問題でした。「とにかく撮りたいんです!」という強
引な説得で,撮影を始めました。ここは,10年前,大学で自転車の練習をしていたときに,見つけていたところで,はやくから物色していたところです。
山と山の谷間を道路が高架橋で通っています。その下45mのところに野原,小川,道路があるのです。そこに向かって落下させてみようというのです。みなさんは,どう思いますか。
ア どちらもほとんど同時に落ちる
イ 直径20ミリの鉄球の方が早く落ちる
ウ 直径10ミリの鉄球の方が早く落ちる
最初は,野原に落としたのですが,音がよく聞こえないということで,最後は道路へ落とすことになりました。「玉を落としている時に自動車が来たらどうよう・・?」と冷や汗タラタラの三木さんをよそに「ぜったいに撮影して,実験結
果を撮るんだ!」というボクの意気込みだけで,10回ぐらい実験しました。三木さん曰く,「あとの2人はヘーゼンとしています。なんちゅうやつらや??」というほどです。ボクと小河さんはノリノリ状態です。実験結果がたのしみで仕方な
かったのです。小河さんもあとで,
「うーん,田舎道だからいいんじゃない?(爆笑) でも,完全にあの状況なら,往来妨害罪が成立するかも。本来なら,道路占有使用許可を取って,安全な方法で道路を一時的に通行制限して・・・ってところでしょうか?でもあの程度なら,車や電線に危害を加えない限り,軽微なのでそう大きな罪には問われないとは思いますが・・・」
と法学部の大学院に行かれているだけあって,冷静にコメントされています。ボクは,分かっていましたが,「実験のためなら,そしてそれをたのしみにしている人のためなら…」とあきらかに確信犯でした。
この時には小河達之さんが持ってきてくれていた無線機が,すごく役に立ちました。これは無線機なしではちょっとしんどい実験でしたが,おかげで無事撮ることができました。ところが,小河さんの「再度撮影とかは無しですよ・・」と
いう言葉は,楽知ん研究会の参加者の発言によって,もろくも崩壊したのでした。つづく。
■パート2−1999.9.12
河原の実験と落下の実験は,「???」というものでした。撮影が悪いというのではなく,「動力学」のビデオを撮るというのは,かなり大変だということがわかりました。動いているものをおさめようというのは,シロウトには難しいと
いうことを,楽知ん研究会の参加者からの意見から痛切に感じました。
そこで,「もう一度撮り直したい…けど,これ以上うまく撮影できるかなぁ」とそんな話をしていたときのことです。森田明義さんが「デジタルビデオを買ったから,これでやってみない」と言われたのです。デジタルビデオはそれまでの
ハンディビデオカメラとは,相当違う高画質のものです。以前から欲しかったのですが,高くて買えませんでした。森田さんの一声で一気に撮り直しに傾くのでした。6月のことです。
すぐに三木さん,小河さんに連絡です。お二人は,すでに撮影を経験しているので,より上手に撮れると思ったのです。ただ,日曜日にうまいこと天気がよくなかったのと,なかなか日程の調整ができなくて,結局9月になりしまた。
デジタルビデオ持参の森田さん,視聴覚主任の三木さん,無線と何でも出てくる小河さんと実験道具係の佐藤の4人は,朝8時半に集合しました。心配した天気もよく一路,校外の吉備新線上高田へ小河さんの運転のもと行きました。
まずは,45mの橋からの落下の実験です。いろいろなものを落としました。詳しくは,このプランとビデオを見てもらえればよくわかりますが,デジタルビデオカメラの威力はすごいです。バッチリ映っていて,見事結果が出ました。編集しているときに「デジタルビデオはすご〜い」と叫ぶほどです。
2時間ほどして,次は川で石を投げる実験です…「むむっ」,落下の実験をしている横に波もなく水面がまっ平らな池があるではありませんか。移動時間のロスもなく,すぐに実験です。
このときに,森田さんが「 <ものさし> がなきゃね」と竹を水面に浮かせておいて,目印をおいてくれました。これで,大小どちらの石がよく飛んだのかという実験結果がシャープに出て,とってもよくわかりました。しかし,野球のピッ
チャーのように何回も全力で投げるのは大変でした。
そのあと,洋食屋ルーアンで食事です。その間も〈鏡の分身〉〈世界の国歌〉のプランをする4人には,お店の人もあきれ顔でした。
最後に法界院というお寺に舞い戻ってきました。釣り鐘の実験です。これも <ものさし> を上手に使って,今度はうまく撮れました。さすがに4人いるとイイ知恵が次々と浮かんできます。スムースに行きました。あと,4人が集まるチャンスというのは,なかなかないので,「車は,人間が押すことができるか」という実験も撮影できました。
家に帰って,編集してみましたが、実によく撮れていて,それを見た人たちの評価がグンとよくなりました。本当に協力してくださった3人の方には,感謝します。
■パート3−2000.3.28
「もうこれで,アヤシイ撮影隊も役目を終えて,解散かなぁ」と思っていました。ところが,夏の仮説実験授業セミナーで板倉聖宣さんがこのプランのことについて,「昔,国鉄は操作場で貨車を人間が押して,行き先を振り分けていたんだよ(今で言う,宅配便のように)。重いものが動くそんなビデオが撮れたらいいねぇ」という話がありました。それを聞いて「そうなの〜?もし,本当ならビデオに撮りたいなぁ」なんて思ってしまったのでした。
それからのことは,別のレポート
「重いものはどこまで動かすことができるか?」
に書いてありますので,詳しくはそちらを見てもらえれば,いいのですが,突然,20トンの貨車を押せるかどうかの実験が実現し,小河さんとボクは,撮影機材をかかえ,いっしょに神奈川県の川崎市まで「アヤシイ撮影隊 パート3」として出動することになったのでした。今回は,板倉聖宣さん,東京の荒井公毅さん,神奈川の西条善英さんが参加されました。この実験も感動的で,板倉さんは,とっても満足され,実験中もノリノリ状態になっていました。もちろん,参加者全員,ビックリする実験結果にうれしさが込み上げるばかりのものになりました。
■これから。パート4は?
これでアヤシイ撮影隊が終わりではありません。まだまだこのプランに必要なものがあって,いろいろ計画中です。そして,このプラン以外にもビデオを使うと「とってもよく納得できる」実験があることでしょう。ボクは,そのことをサ
イエンス・シアターに参加して,ずいぶん学んだような気がします。その場で自分が実験しなくても,ビデオで実験結果を見るだけでもワクワクするような実験があるのです(もちろん,目の前で実験できればそれが一番ですが)。そのためにも,「アヤシイ撮影隊」は出て行くことになると思います。これは,一人ではなかなかできません。研究仲間たち,そして,それを喜んでくれる人たちがいてくれるおかげです。これからも,「たのしい研究」を続けていきたいと思います。
■□■□佐藤重範★Satoh Shigenori in Okayama□■□■