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スペンサー博士とレーセオン社

電子レンジの発明をめぐって

仮説実験授業研究会 丸山秀一 kasetsu.maruyama@nifty.ne.jp

1998.7.11 暫定版 札幌仮説サークル用レポート
7.23 小改訂 板倉聖宣先生へ
8.4 ホームページ版作成

 

■スペンサー博士の写真を探せ

 授業書〈電子レンジと電磁波〉によると,電子レンジはアメリカのレーセオン社で軍事用レーダーの研究をしていたスペンサー博士が「レーダーの近くで働いていた人たちのポケットに入れてあったチョコレートが柔らかくなる」ことに気がついて発明されたことになっています。しかし授業書の解説で板倉聖宣先生(板倉研究室)が「チョコレートは博士が持っていたとする文献もあるし,ふつうチョコレートは銀紙に包まれているから発熱しないのではないか」と指摘しているとおり,電子レンジの発明のいきさつと,スペンサー博士についてはまだ詳しいことはわかっていないようです。
 この授業書を元にした「レンジマン」というたのしい漫画を小笠原智さん(北海道・札幌市)が作られています。あるとき小笠原さんに,「スペンサー博士を描きたいのだが,写真か何かないだろうか」と相談を受けました。それで,人名辞典などで調べてみましたが,スペンサー博士を見つけることはできませんでした。


■インターネットでレーセオン社はみつかるか

 それからしばらくして,僕はなにか調べものがあると,インターネットを活用するようになっていました。ちょうど授業で〈電子レンジと電磁波〉を始めたところなので,スペンサー博士について,インターネットで調べてみようと思いました。スペンサー博士を見つけることは難しいと思いましたが,企業であるレーセオン社なら,アメリカでホームページを開いているに違いありません。まずそこから調べてみました。
 レーセオン社とはどんな会社なのでしょうか。僕は小さな会社だと予想していました。マイクロ波などの研究で技術力はあると思うのですが,聞いたことのない会社なので,それほど大きいとは思えません。
 調べてみると,レーセオン社は子会社がたくさんあって,実にたくさんのことを手がけているのがわかりました。会社内容に「国防」とついている会社も多くて驚きました。こんなにたくさんあっては,どの会社が電子レンジと関係するのかわかりません。とりあえず「会社の歴史的背景」というのを読んでみました。すると,「航空機設計製造」「誘導ミサイル」「
NASA通信システム」なんてのもあって驚きました。一年間の収益が200億ドル(97年度)もあるアメリカではトップクラスの企業ということもわかりました。(*1)
 予想とぜんぜん違う大きな会社だったので,会社調べはとりあえず置いておいて,スペンサー博士のほうを調べてみることにしました。

 

■スペンサー博士はみつかるか

 「percy l. spencer」で検索をかけた結果は,見つかるかどうか全く自信のなかったボクにとって,全く意外なものでした。なんと47万件ものホームページがあったのです。これはあとからわかったのですが,これは検索の方法をボクがよくしらなかったため,「Percy」「L.」「Spencer」のそれぞれの語句が含まれているホームページを探し出してしまったようなのです。そこからわかったことは,「Spencer」という町があちこちにあることや,「Percy Spencer」という教会関係者や大学の陸上選手がいるということでした。
 でも検索結果の中に「
Raytheon」という文字があるのを見つけて,「これに違いない」と思って,そこを調べてみました。そうして,スペンサー博士の写真をみつけることができたのです。そこはなんと最初に調べたレーセオン社のホームページのひとつでした。

スペンサー肖像■「博士」という肩書きがない

 ホームページの文章を読んでいて,まず最初に「スペンサー博士」という記述がどこにもないのに気がつきました。スペンサーさんがレーセオン社の社長らと写っている写真があるのですが,スペンサー博士以外は,「博士・会長・将軍」などと,みな名前に肩書きがついているのです。それなのにスペンサーさんだけは「エンジニア」という紹介だけなのです。(もっとも「伝説になっているほどすばらしいレーセオン社のエンジニアのスペンサー」と紹介されています。)
 そこで「会社の歴史的背景」を詳しく読んでみると,その謎がわかりました。スペンサー博士は,義務教育(
grade school educationだから,日本で言えばせいぜい中学校まで)しか受けていないのです。「スペンサーは,義務教育しか受けていなかったが,驚くべき好奇心の感覚を持っていた。」と書かれています。また別のホームページ(*2)では,スペンサー博士のことが「高等学校での教育がなかったにも関わらず」「DrPercy Spencera selftaught engineer」と書かれています。つまり,彼は博士号のない「博士」だったわけです。しかし彼の業績は,次のように高く評価されています。(筆者による訳)

 スペンサー博士のことをいろいろなホームページで調べてみると,「DrSpencer」としているところも多いのですが,単に「エンジニア」としているところも多く,「Dr.」は,尊敬の意味のようです。(筆者注: 後に名誉博士号を授与されているのを確認。)

 

■スペンサー博士の業績

 スペンサー博士のことはレーセオン社では伝説的に語られているようです。彼の業績は,ホームページで詳しく紹介されています。それをちょっと要点を訳して転載しておきます。

 スペンサー博士のおかげで,レーセオン社は今日の大企業へとなれたというわけです。また,このレーダーの大量生産が連合国を勝利に導いたために,スペンサー博士は「戦争に勝つために貢献した英雄のひとり」といわれているわけです。


■電子レンジの発明者

 スペンサー博士は,どのようにして電子レンジを発明したのでしょうか。授業書にあるように「兵隊のポケットにあったチョコレートが柔らかくなったことから」なのでしょうか。私が,ホームページで調べてみた限りでは,「兵隊のポケット」となっているところは,ひとつもありませんでした。また「チョコレート(chocolate bar)」となっているところは,ひとつだけで,あとはみんな「スペンサー博士のポケットにあったキャンディ(candy bar)がとけた」となっています。チョコレートキャンディだったのでしょうか。一番信頼できると思われるレーセオン社のホームページから関連部分を訳しておきます。

 こういうのを読むと板倉聖宣先生の「電子レンジの発明物語」の方がずっと感動的ないい話になっているのがよくわかります。電子レンジの発明については,ホームページによっては1946年としているところもあり,また細かいいきさつについては,それぞれ微妙に異なっています。別のホームページも訳してみます。

 別のホームページで〈『The Complete Microwave Oven Service Handbook』からの抜粋〉として電子レンジの発明物語を載せているところがありましたので,これも訳しておきます。

■スペンサー博士はどんなひと?

 スペンサー博士の同僚だったRobert L. KyhlMIT放射線研究所)がインタビューで次のようにいっています。(MIT Radiation Laboratory Oral History Projectより*4

 スペンサー博士の経歴は,まだほとんど何もわかっていませんが,彼は死ぬまでレーセオン社で働いていたようです。

 また,意外なところから(世界大戦での軍部隊の同窓会のようなホームページ)彼の孫を捜し当てることができましたので,電子メールでスペンサー博士について尋ねているところです。

Percy LSpencer略年譜 (ホームページ版では省略)

■引用ホームページ

 スペンサー博士の写真は,マサチューセッツ工科大学のホームページ(http://web.mit.edu/invent)より転載。
 *1 http://www.raytheon.com
 *2http://www.gallawa.com/microtech/history.html
 *3http://home.nycap.rr.com/useless/microwaves/microwav.html

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 丸山 秀一 
kasetsu.maruyama@nifty.ne.jp

 

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